<ひと物語>故郷追われた民族支援 クルドを知る会代表・松沢秀延さん

<ひと物語>故郷追われた民族支援 クルドを知る会代表・松沢秀延さん


 

2019年6月3日  東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201906/CK2019060302000132.html



クルド人が人として当たり前の生活が送れるようになってほしい」と話す松沢さん=草加市

 世界に三千万人以上いると推定され「国を持たない世界最大の民族」とされるクルド人。主にトルコやイラクなど中東の山岳部で暮らすが、第一次世界大戦戦勝国が引いた国境で居住地が分断され、弾圧されてきた。
 県内では川口市蕨市に多く、蕨周辺はペルシャ語で国を意味する「スタン」を付けて「ワラビスタン」とも呼ばれている。関東地方で活動する「クルドを知る会」代表の松沢秀延さん(71)=草加市=は、長年支援を続けている一人だ。
 クルド人との出会いは、一九八〇年代。人手不足で、勤務先の造園会社には多くの外国人が働いていた。ある日、突然一人の男性が姿を消した。二年後に再び事務所を訪ねてきた男性は、片言の日本語で「ウシクにいる」。茨城県牛久市にある入国管理センターに収容され、仮放免中だと説明した。トルコから迫害され、来日したクルド人だった。
 「トルコに旅行したことはあるが、迫害されている民族がいたとは知らなかった。歴史を学ばなくては、彼らがとんでもないことになる」。外国人との交流を通して、民族問題などへの理解を深めていった。
 二〇〇三年、同僚のクルド人から「自分たちのコミュニティーをつくりたい」との申し出を受け、JR蕨駅前に部屋を借り「クルディスタン&日本友好協会」を開設。日本人でつくる「クルドを知る会」も立ち上げ、行政手続きの援助のほか、歌やダンスを披露して日本人と交流する場を設けるなど支援している。
 ただ、ビザがない場合の法律の壁は厚い。親が法務省の施設に収容されて寂しがる子ども、保険証がなく実費負担を分割払いする妊婦…。松沢さんは「彼らを難民として、人として、政府が認めないことが一番の問題」と怒りをあらわにする。
 日本では昨年、一万四百九十三人が難民申請をしたが、認定されたのはわずか四十二人。松沢さんが支援する、国に在留特別許可を求める訴訟を起こした仮放免中のクルド人の六人家族は今年二月、成人の子ども二人についてだけ、難民ではなく留学生として滞在が認められた。仮放免中に在留特別許可が出るのは画期的とされるが、松沢さんは「難民の申請数を減らそうとしているにすぎない」と国の対応を批判する。
 故郷を追われながらも、いつ強制帰国させられるか分からない不安におびえるクルド人は多い。「彼らは私たちと同じ人間です。人と人として向き合える社会になれるよう、まずは多くの人に存在を知ってほしい」との願いが松沢さんの活動の原動力だ。 (浅野有紀)