千葉) 香取神宮の「鹿苑」残った 愛護会が譲り受け
シカ飼育は6月まで!? 香取神宮「リスク大」 譲渡の愛護会「継続を」
香取神宮(香取市)のシカが、昨年7月にボランティアグループ「香取の鹿愛護会」(川崎市、鍵元礼子代表)に譲渡され、今年6月末をもって1年間の引き取り猶予期限を迎える。残り半年を切る中、愛護会は「まだ新しい飼育場所は決まっていない。可能なら今の場所で飼いたい」と切望。一方、神宮側は「このまま飼い続けるのはリスクが大きい」と期限内の退去を望んでいる。(香取支局 馬場秀幸)
観光地などで生育しているシカでは奈良公園(奈良市)が有名。香取神宮の関係者などによると、同神宮のシカは昭和30年代ごろ、ゆかりのある鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)に倣って飼い始めたという。現在、敷地内の柵の中に16頭いる。
◆飼育めぐり批判も
かつてはシカ以外の動物も複数いて、敷地内の憩いの場としても人気があったといい、雑務スタッフが餌やりなどの世話をしていた。このため「プロの飼育員はおらず、シカにとって決して良い環境ではなかった。飼育の方法をめぐって、たびたび動物愛護団体から批判があった」(同神宮)という。
数年前から、愛護会とは別のボランティアが支援を行っていた。神宮側は昨年春、鍵元さん(44)らの活動を理解し飼育全般を依頼。両者の関係は良好だった。同会も「このまま神宮でシカを世話するのが一番と考えていた」と振り返る。
それが、なぜ神宮がシカを手放したのか。
理由について、同会は昨年6月にあった出来事を指摘。「神宮の担当者が何の前触れもなく、赤ちゃんを産んだばかりの母ジカと、出産前のシカの2頭を『シカが増えすぎた』との理由で、知人に譲った」という。すぐに2頭は神宮に戻ったものの、この一件以降、両者の関係はこじれたという。昨年7月、神宮は同会にシカを譲渡するとして、文書を取り交わした。
◆のしかかる愛護法
譲渡の背景には、飼い主の責任などを求める2013年9月に施行された改正動物愛護法もあった。神宮側は「『ただ、かわいい』だけでは動物を飼える時代じゃなくなった。シカのことを思えばの譲渡。現行の法律では、やむを得ない。このまま飼い続けることはリスクが大きい」と説明。
さらに「あの場所(鹿苑)でシカを飼っている以上、飼い方などをめぐって、インターネットで誹謗(ひぼう)中傷の書き込みをされるのは香取神宮。以前に愛護動物ではなく、畜産動物として飼うことも模索したが、宗教法人として、シカを思えばこそ譲渡するしかなかった」と続けた。
日本神話に登場する鹿島神宮の武甕槌大神(タケミカヅチノオオカミ)と香取神宮の経津主大神(フツヌシノオオカミ)が、手紙でやりとりした際にシカを使ったとの言い伝えがあるなど「神の使い」とされた同神宮のシカ。参道で商売を行う経営者の一人は「もともといたシカがいなくなるのは寂しいが、神宮が決めたことなので」と話した。
千葉)香取神宮の「鹿苑」残った 愛護会が譲り受け
岩城興
2016年6月7日03時00分 朝日新聞
東国三社の一つ、香取市の香取神宮には「鹿苑(しかえん)」があり、神の使いとされるシカ16頭がいる。市民団体「香取の鹿愛護会」のボランティアらが飼育し、境内の憩いの場になってきた。この6月末で廃止される予定だったが、直前に迫った先月、存続することが決まった。
「可愛いね」。4月下旬、本殿の裏手奥にある鹿苑。参拝客が三々五々、訪れる。脇では愛護会の女性4人が、シカたちの世話をしていた。一口大に切ったニンジンをえさ場に入れると、シカたちが一斉に駆け寄ってきた。代表の鍵元礼子さん(44)=川崎市麻生区=は「目が優しく、人なつっこい。みなさん『癒やされる』と言います」。
鹿苑は広さ約350平方メートル。放し飼いにすると近隣の畑を荒らしてしまうため、金網で囲う。愛護会には県内外の約250人が登録し、活動費を寄せるほか、うち約30人が交代で日常の世話をしている。1頭あたり1日約10キロのえさが必要といい、近隣の豆腐店からおからを、農家からは形がいびつか一部が傷んだ野菜をもらっている。
香取神宮によると、昭和30年代終わりごろ、同じく東国三社の一つ鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)にならって飼い始めたとされる。しかし近年は人手不足で世話が行き届かなくなり、ネット上や電話で非難されたこともあったという。
鍵元さんらが面倒見を買って出たのは約3年前。奈良公園(奈良市)の「奈良の鹿愛護会」をめざし、自ら会を立ち上げた。初めて訪れた時は栄養不足のためか、「毛並みがボロ雑巾のようだった」という。毎日のえさやりや獣医師の協力もあり、元気を取り戻した。昨年には赤ちゃん4頭が生まれ、16頭になった。
昨年6月、神宮の当時の担当者が、出産直後と間近の母鹿2頭を個人に譲った。2013年9月施行の改正動物愛護法で、動物を終生大切にするよう飼い主の責任が明文化されたことが理由だといい、現在窓口となっている香田隆造禰宜(ねぎ)は「可愛いだけでは飼えない。シカのことを思えば、頭数を減らす必要があった」と振り返る。
愛護会の申し入れで2頭は戻されたが、これを機に昨年7月、愛護会が「責任を持つ」と全頭を譲り受けた。今年6月末までに新しい飼い場所を探すことが条件だった。
しかし地元から廃止に反対する声が上がり、神宮側も今年に入って鹿苑継続を検討し始めた。5月初め、「互いの信頼関係が築かれた」と、無償で鹿苑を提供する内容の覚書を交わした。鍵元さんは「地元から『ヨソの人間がシカを連れて行った』と思われたくなかった。できるならば、神宮で飼い続けるのが一番と考えていた」。香田禰宜は「神様とご縁のあるシカが残ることになり、喜ばしい。できる限り協力したい」という。
課題はえさの調達に加え、世話当番の人繰り。メンバーは6割が県外在住で、数時間かけて通ってくる人も多い。鍵元さんは「地元でもシカの存在が意外と知られていない。もっと多くの方に参加してもらい、活動を盛り上げていきたい」と話している。