埼玉県草加市立病院は16日、国の基準を満たさないまま、子宮がんの腹腔鏡(ふくくうきょう)手術を5年間に計69件実施していたと発表した。腹腔鏡手術より金額の低い手術をしたことにして診療報酬を請求していたという。請求額は約1億円で、健保組合などの保険者への返還を検討している。

 病院によると、腹腔鏡手術は主に非常勤のベテラン医師が担当し、2012年度から昨年度までに計69件を手がけた。腹腔鏡手術の診療報酬を請求する際、国の基準は常勤の病理医を配置するよう求めているが、同病院は基準を満たしていなかった。

 診療報酬は、点数の低い開腹術をしたとして請求。患者には腹腔鏡手術を施したと説明し、開腹術分の手術代を請求していた。

 これまでに患者の急変などの事故はなく、患者に新たに負担を求めることもしないという。高元俊彦事業管理者は「診療報酬の請求について認識不足があった」と陳謝した。(米沢信義)

 

安全基準満たさず69人に子宮がん手術 埼玉 草加市立病院

子宮体がんや子宮けいがんの腹くう鏡手術を行っていたのは埼玉県草加市の「草加市立病院」です。

腹くう鏡手術は患者の体への負担が比較的少ない一方で、高度な医療技術が必要なことから、厚生労働省は保険を適用して行うには常勤の実績のある医師や病理医がいるなどの安全基準を満たさなければならないと定めています。

しかし、草加市立病院はこの基準を満たしていないにもかかわらず、非常勤の医師が去年までの5年間に子宮体がんで58人、子宮けいがんで11人の合わせて69人の患者に手術を行い、診療報酬を請求していたことが病院関係者への取材でわかりました。

手術によって症状を悪化させるおそれがあるとして学会のガイドラインなどで腹くう鏡手術ができる対象としていない進行がんの患者も含まれていました。

市や病院は去年9月、別の医師からの指摘を受けてこうした問題を把握していましたが、手術を受けた患者に説明せず、一般にも公表していませんでした。

草加市立病院は、NHKの取材に対して「不法な医療行為をしたわけではなく保険請求をするうえでの悪意のないミスで厚生局にも届け出た。患者には今後説明する予定だ」としています。

手術繰り返した医師「見よう見まねで」

草加市立病院で腹くう鏡手術を行っていた男性医師は、NHKの取材に対して、「腹くう鏡の手術は特に専門の医師からトレーニングを受けたわけではなく、見よう見まねでやっていた。良性の腫瘍の手術は行っていたので、4年ほど前に子宮がんでも試してみたところ、うまくできたので、続けていた。私が行った手術は治療成績もよかった」と話しています。

また、手術の前にほかの医師や看護師らと患者の病状や手術の手順などを検討したり確認したりする「カンファレンス」という打ち合わせを行っていなかったことについて、「手術をしているのは僕なので、カンファレンスはしない。一緒に手術室に入る2人の医師には『よろしくね』って言っておくだけ。ふわふわした環境だ」と話しています。

問題発覚の経緯とその後の対応

今回の問題が発覚したのは去年9月でした。

産婦人科の非常勤の男性医師がこの病院では保険適用ができないはずの腹くう鏡を使った手術を行い、診療報酬を請求していると別の医師が病院幹部に指摘しました。

病院はその後、男性医師の聞き取りを行い、平成24年度からの5年間で少なくとも58例の子宮体がんと11例の子宮けいがんの腹くう鏡手術が行われていたことがわかりました。

さらに提携している東京医科歯科大学の教授2人を招いて検討委員会を開き、本来、請求できない診療報酬を受け取っていたとして去年10月末、関東信越厚生局に申告しました。

また、同じ頃に草加市議会の一部の議員に説明し、田中和明市長も問題を把握しました。

しかし、手術を受けた患者や市民への説明が一切ないままことしになって悪性のがんの手術を行わない方針だけを病院のホームページで告知していました。

そして15日、NHKが病院に取材をしたところ、草加市や病院は16日になって緊急の記者会見を開きました。

高い技術求められる「腹くう鏡手術」

腹くう鏡手術は医師が患部を直接見てメスで切り取る開腹手術と異なり、患者の腹部に小さな穴を空け、そこからさし込んだ複数の内視鏡器具を両手で駆使して、モニターに映る腹部を見ながら、他の臓器や神経を傷つけないようがんを切除し、縫合する手術方法です。

患者の体への負担が比較的少ないことなどから医療現場で導入の動きが進んでいて、厚生労働省は4年前に子宮体がんを保険適用の対象として承認し、子宮けいがんは保険と併用できる先進医療として承認していました。

ただ、高い医療技術が必要なことから厚生労働省は安全性を確保するために適切な環境の元、手術の実績を重ねた医師やがん細胞の特徴などを調べる病理医が常勤でいることなどの「施設基準」を満たした医療機関にしか保険診療を認めていません。

また学会のガイドラインは、がんが進行していた場合にはがんを取り切れなかったり、むしろがん細胞が周辺に散らばって進行や再発を促進してしまったりするおそれがあることから、腹くう鏡手術は進行度が低いがんだけを対象としています。そして安全に手術を行うためには内視鏡の技術認定医と婦人科腫瘍の専門医を加えたチームで手術を行うことが望ましいとしています。

しかし、草加市立病院は保険適用の施設基準を満たさずに診療報酬を請求していただけでなく学会のガイドラインが求めるような医療体制もないまま進行がんの患者にも腹くう鏡手術を行っていました。

腹くう鏡手術をめぐっては4年前に群馬大学付属病院で肝臓がんなどの手術を受けた患者8人が死亡したほか、千葉県立がんセンターでもすい臓がんなどの手術で11人が死亡したことが発覚するなど病院の安全管理が問われる事態が相次いでいます。
 
 
草加市立病院、医師不足で9月から産婦人科を一時休止
2018 2月17日 産経新聞
 
 草加市は16日、同市立病院の産婦人科の医師数が昨年末時点で5人から3人に減ったことを受け、9月から同科を一時休止すると発表した。現在、在籍する3人のうちの2人が年齢や健康上の不安を抱えており、24時間365日の診療体制の維持が困難になったという。

 同病院によると、8月に同病院で分娩(ぶんべん)を予約している妊婦については9月以降同科が休止することを伝える。患者には外来診療で対応する。同病院は引き続き、同科の医師の確保を進めるとしている。